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「あの、突然ですが、これを装着して頂けますか?」
「……何?」
「薄型の防弾チョッキです」
女はにっこりと微笑みながらも手に持っているものを俺に差し出してくる。
そのベスト型のチョッキを眺めて、頭の中にはクエスチョンマークがぎっしりと浮かんだ。
「今から十分後、あなたは撃たれます。背後から左胸を二発。ほぼ即死です」
「……は?」
「なので、何も知らないフリをしてこの道を真っ直ぐに進んでください。防弾チョッキを着ていれば死ぬことはないので安心してくださいね」
「……」
「それと、犯人があなたを殺し損ねたことに気が付いたらまた命を狙ってくると思うので、撃たれたらうつ伏せに倒れて死んだフリをしてください。その後の指示はまたこちらから出しますので、良いというまで動かないでくださいね?」
「……いや、まて」
「あ。大変。羽衣が言っていた時間まであと少ししかありません。どうぞ防弾チョッキをつけてください」
「や、だからまてって、」
「いいからはよ付けろ。言っておくが、羽衣のことをイカれた女呼ばわりしたことは百回死んでも許さねぇからな。これでマジで撃たれたら全裸で土下座して羽衣の足元に口付けろよ?な?」
バッと煙草を取り上げられて、代わりにチョッキを突き付けられる。豹変した女に困惑したものの、その目力に威圧されて思わず受け取ってしまった。
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