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「悪かったな。あんたにイカれてるって言ったこと、今なら本気で酷い言葉だったと思う」
「……」
「ってことで、とりあえず今日のところは帰るよ」
「えっ!もう帰っちゃうんですか?」
「とりあえず美澄に謝りたかっただけだから」
右京は煙草を携帯灰皿にいれながらも腰を上げる。藤花が寂しそうな顔をした。
「夜遅くに押し掛けて悪かった」
「いいんですよ。イケメンだったら何をしても許されますから。あ。これは私の名刺です。この建物の一階のカフェのマスターをしています。ぜひ飲みにいらしてくださいね」
「どうも。また来るよ」
「二人で勝手に話を進めないでくれる?」
藤花の雇い主は私なのに、なぜだか蚊帳の外だ。二人は最後まで私のことを無視して二言三言やり取りを交わすと、梯子に向かって歩いていく。
しかし下りる直前に、右京が私を振り返った。
「あんたのお陰で命拾いした。ありがとう」
「……」
「ここで平気。勝手に出てくから。じゃ、おやすみ」
最後の台詞は藤花に告げて、右京はそこから姿を消す。
いきなり現れて自分のペースでいなくなるなんて、なんて自由奔放な男だ。
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