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梯子の上の部分から顔を覗かせてヒラヒラと手を振っていた藤花は、見送りが終わると、ニヤつきながら私を見た。
「とても素敵な殿方じゃないですか。礼儀正しいですし、何より羽衣の気持ちを理解してくださるなんて…。どうです?これを機に、王子とお友達になってみるというのは」
「断る」
「えーなんでですか?何が不満なんですか?彼、ちゃんと羽衣に謝罪を述べたじゃないですか。それに二人ともなかなか相性が良いと思いますよ?そもそもクールな羽衣が振り回されるところなんて滅多に見れないですもの」
「振り回されてなんかない。あと言っておくけど、今度今みたいに無断で部屋に人をいれたら、一週間…は寂しいから、二日間は口を聞かないからね」
「その時々みせるデレなんなんですか?めちゃくちゃ可愛いんですけど」
「デレてない。真剣に言ってるんだ」
ふん、とそっぽを向いて飲みかけのお茶を一気飲みする。「お替わりは?」という問い掛けに首を横に振った。
「藤花」
「はい?」
「冗談抜きで、もう彼には会いたくない」
「……」
「彼と話して益々そう思ったよ」
恐らく藤花は、私が"あのこと"を言ったから、今回のような行動に出たのだろう。
あの男は死ぬ間際に笑ったんだ、と。
その笑みがとても綺麗だったんだ、と。
私が珍しく他人に興味を示したことで、藤花は彼をこの場所に連れて来たのだろう。
「やっぱり人とは深く関わるべきじゃない」
未来を視ただけで彼のことが気になってしまった以上に、心が激しく動揺していた。
"人の死を視ることが怖い"という気持ちは誰にも気付いてもらえなかったことだし、気付いてもらおうと思ったこともない。
それを当然のように見透かされたことが、私にとっては衝撃的で、怖いとすら思ったのだ。
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