sacrifice.01 拒絶

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だからもう彼と関わることはないだろう。藤花も私の気持ちを考慮して、右京一覇が店に来たとしても、それっきりで関係を切ってくれるだろうと思い込んでいた――のに。 「おかえりなさい、羽衣。一覇さんが来てますよ」 出先から戻ってくると、なぜだかカウンターの端の席にヤツが座っている。ひくりと頬が引きつった。 「藤花、どうして彼がここにいる?」 「だからうちの珈琲を気に入ってくださっているんですよ。この一週間毎日のように顔を出してくださるんですから立派な常連さんですね」 「じゃなくて…」 「紅茶飲みますか?デザートはミルクレープなんてどうでしょう?」 私の言いたいことが分かっているくせに、聞く耳を持たずに紅茶をいれる準備を始める。仕方なく彼とは離れているテーブル席に腰掛けた。 藤花も藤花だけど、彼も彼だ。この一週間、もはや指定席と化しているそこに腰掛けて、何やら本を読んでいる。店の一角には古い小説がずらりと並んでいるので、そこから選んでいるらしい。 そんなことはどうでも良くて、さすがに毎日は来すぎだと思う。私は出掛けていることが多いのでそんなに顔を合わせているわけじゃないけれど、短くても三時間はこの場所で過ごしているみたいだ。
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