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「一覇さんが来てくれるようになってから売り上げがグンと上がったんですよ?特に女性客が増えたんです」
「へー」
「見てくださいよ。ただ座って本を読んでいるだけなのにあんなにも絵になる王子様っています?」
「っていうか毎日いるって言うけど暇なの?」
「基本的に夜型らしいですよ?気になるなら本人と話したらどうですか?」
「紅茶飲んだら出掛けるから」
「はーい」
藤花をスルーして新聞に手を伸ばす。ニュースの記事を眺めながらも、カップを口に運んだ。
そうしている間にも二人組の女性客が入ってきて、右京を見つけるとヒソヒソ話をする。当の本人は、頬杖をつきながらも活字がびっしりと書かれた本を読んでいた。
本当に不思議な男だ。一応目が合ったら軽く会釈をするけれど、それ以外に一言も言葉は交わさない。年齢や職業なども分からないし、ここに来る目的も不明だ。名前以外全てが謎に包まれている。
とはいえ、自分から聞こうとは思わなかった。出来ればこのまま向こうからも話し掛けてくることなく、少しずつフェードアウトしてくれればいい。──のだけど。
それから更に一週間が経っても、二週間が経っても、右京一覇は店に通い続けた。
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