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もはやここまでくるとお互いに空気と化していた。右京を見ても驚くことなく、彼もまた本を読むことに夢中になっている。なので、彼について藤花に小言を言うこともなくなった。
そんな代わり映えのない日々が続いていた、ある日のこと。
「おかえりなさい、羽衣。やっぱり夏服は爽やかで素敵ですね。強いて言うならもう少しスカートが短くてもいいと思いますけど」
「あんまり短いと生活指導がうるさいんだ」
「生活指導の先生に目を付けられるほど学校に行ってないじゃないですか」
「人を不良みたいに言うな」
学生鞄を肩にぶら下げたまま、冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。立ちながら飲んでいると、「お行儀が悪いですよ」と注意された。
仕方なく座ろうと店側に回れば、今日は珍しく客がいない。……いや。カウンターの端には、例の如く"彼"がいた。
いつも通り特に挨拶を交わすことなく、テーブル席につこうとした。その直後、「は?」という声が聞こえて、思わずその方向をちらりと見てしまった。
するとなぜだか、こちらを見て目を丸くしている右京の姿がある。その視線にギクリとして固まれば、右京はその大きな瞳をパチパチと動かした。
「……え。何」
「いや…は?美澄って高校生なの?」
「は?今更?」
「……まじかよ」
どうしてそんなに驚いているのか知らないが、あまりにも衝撃的だったのか、右京は煙草を指に挟んだまま固まっている。灰が落ちそうだなぁと思っていたら、案の定腿の上に落ちて、熱っ!と飛び上がった。
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