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「なぁ。あんた…」
「君は黙ってて」
「は?」
「私はこの人に用があるんだ」
俺が口を挟めば、女は最後まで聞くことなくシャットアウトする。急に割り込んできたくせにやたらと偉そうな物言いだ。
っつーか、ちょっと…というか、かなり頭がおかしい。こんな真夜中にこんな路地裏にいること自体異様だし、挙句にスーツ姿の男と全身黒い服を着ている俺の間に入ってくるなんて、怖いもの知らずというか、ただの馬鹿なのか。
「おい。今俺らは大事な話を」
「その内ポケット、何が入ってるの?」
「……なんだと?」
「あなたは今そこに手を伸ばそうとしてる」
「……」
「何を、しようとしているの?」
なんの話なのか俺にはさっぱり分からない。しかし女が尋ねた瞬間、情報屋の顔色が変わったことは分かった。
「お前…何者だ」
「動かないで」
「……」
「手荒な真似はしたくないんだ。言うことを聞いてくれたら撃たない」
女は低い声で告げながら情報屋に詰め寄る。益々訳が分からずに眉を顰めた時、女の手元が見えた。
「な…」
そこに見つけたのは黒光りの塊だ。思わず声を漏らせば、女の大きな瞳がちらりと俺を見た。
「急になんだよ…何が目的だ?」
「何もせずにどこかに行って」
「……」
「今すぐ消えて」
情報屋の疑問に女は鋭い言葉を向ける。その拳銃が本物かどうかは分からないけれど、安全装置を下ろした音に情報屋は酷く怯えた表情を浮かべた。
「いや、まて。そいつは今俺と取引をしてて」
「……右京、この話は無しだ」
「は?なんだって?」
「じゃあな」
「いや…おいっ、まてよ」
俺の呼び掛ける声に見向きもせずに情報屋は歩きだす。数歩進みながらちらちらと女の方を振り返っていたけれど、最終的にはダッと駆け出した。
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