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「……美澄。おい、美澄!」
腕を揺すぶられて、ハッと我に返る。無意識のうちに呼吸が浅くなっていて、落ちつかせるように深く息を吐き出した。
目の前の信号は青になっていて、気付いた時にはもう点滅し始める。私を見つめている右京は眉を顰めて怪訝な顔をしていた。
「あんた、大丈夫かよ」
「……何が?」
「何がって、あっち向いて固まってるから何か思い出してんのかなって思ったら、いきなり真っ青になって震え始めたんだろ。声掛けても全然反応しないし」
「ああ、そう…うん。そっか」
「なに?ほんとに平気?すげぇ汗だけど」
「平気だ。そんなことより、まだ行かなきゃいけないところがある」
「いや、でも、」
「ごちゃごちゃ言うなら帰って」
心配してくれているところ悪いけど、今は気にかける余裕すらなかった。
それに、いつものことだ。冷や汗が滲んでいるのも、寒気がしているのも、さっきまで痛んでいた場所を思わずさすってしまうのも、いつもと大して変わらない。このくらいなんともない。
ただ、右京の目の前で弱味を見せてしまったことは不覚だった。
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