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「いきなり現れて今度はだんまりかよ」
「……」
「あんたが今追い払った男は俺と取引をしてた。情報料の金だって握らせたのに、結局その情報さえもらい損ねた」
「……」
「何か言い訳があるなら聞くが…取引を邪魔されて気が立ってる。くだらない理由だったら殺すぞ」
壁に寄り掛かり、ポケットから煙草を取り出して咥える。なんとか冷静さは保っているものの、大事なビジネスを邪魔されたことにはかなり腹が立っていた。
「じゃあ簡潔に説明する」
「……ああ」
「あの男は君を殺す予定だった」
すると今度はあっさりと口を開いたものの、その内容はすぐには飲み込めないもので。
固まる俺に構うことなく、女は続けた。
「腹部に三発。君は煙草を咥えたままそこで息絶えた」
「……は?」
「あの男はジャケットの内ポケットに拳銃をしまっていて、君を殺すつもりだったんだ。撃たれた君は出血多量で、誰にも気付かれることなく、静かに死んだ」
「……それはアレか。あんたも情報屋か何かで、俺が殺される話を耳にしたとか、そういうことか?」
「なるほど。頭の回転が早いな。だけど私は情報屋じゃない」
「じゃあどこでそんな話を、」
「聞いたんじゃない。視たんだ」
「……」
「君が死ぬのを視た」
シーン、と数秒間の沈黙が流れる。ぽかんと開けた口からは危うく煙草が落ちるところだった。
その返事は理解し難いというか…それ以前の問題だ。なんだてめぇふざけてんのか?と、柄にもなく感情を剥き出しにしそうになった。
だけど女は冗談を言っているような態度じゃない。だからきっと本当に頭がおかしいんだろう。
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