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「あんた…言ってることが馬鹿げてるって分かってるか?」
「馬鹿げてることを言ってるつもりはない」
「じゃあ、何?俺が死ぬのを見たっつーのは、占いとか、何かの予言的な?」
「予言じゃない。未来を視た」
どうやらやはりふざけているらしい。そう考えたら腹の底で燻っていた怒りが爆発する寸前まで一気に膨れ上がった。
大事な取引だった。それをあんな風に邪魔しておいて、厨二病みたいな台詞で片付けられてたまるか。
「未来が見える?そんなこと言われて信じられるわけねぇだろ。頭イカれてんじゃねぇのか」
「……」
苛々する。それなのに女は顔色一つ変えずに、ふいっと視線を逸らした。
「信じる信じないかは自由だよ」
「まだそんなこと言うのか……って、どこ行く気だよ。まだ話は済んでないだろ」
なんの落とし前もつけてないくせに立ち去ろうとする女を止めようと手を伸ばす。しかし女は想像以上に俊敏だった。
俺の手をすり抜けて軽やかにジャンプしたかと思えば、既に塀の上に登っている。まるで重力を感じさせないような猫みたいな動きだ。
「邪魔してごめん」
「……ごめんで済むわけ」
「次は勝手に死ね」
「……」
謝ったくせに、二言目にはそんな毒が降ってきた。挙句に塀の上から見下ろされているので蔑まれている感じがする。いや、その瞳は明らかに蔑んでいた。
その言葉と態度に唖然としている間に、彼女は塀から屋根へと飛び移り、ハッと我に帰った時にはもう姿を消していた。
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