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sacrifice.01 二度目の未来
都会の喧騒から少し外れた細い路地と路地の間に、三階建てのビルがあった。
外観はコンクリートで出来ているけれど、一階にはアットホームな雰囲気が漂う喫茶店がある。店内に入れば、木の壁と暖色の明かりに包まれるような穏やかな時間が流れている。
そして店の奥にある階段から三階に上がれば、私の住んでいる部屋があった。元々が事務所として利用することを目的とした八畳の空間は一人で住むにはなかなか有意義である。更に梯子が付いていて、そこを上れば屋上に繋がっていた。
要は、元々あったビルの中身を喫茶店兼居住場所として改造したのだ。
「おはようございます、羽衣」
一階に降りてすぐに珈琲の香りに包まれる。私を見て笑っている彼女に、おはよ、と挨拶を返した。
「朝ご飯、何にします?」
「いらない」
「じゃあ温かい紅茶を入れますね」
カウンター席に腰掛けてすぐに常温の水が出てくる。それを一気に飲み干してから、置いてある新聞に手を伸ばした。
「そういえばあの男性はどうなりましたか?」
「……」
「えーっと…ほら、銃弾三発で出血死」
「いつも通り助けた」
「ああ、良かったです。羽衣も特に怪我とかなかったんですね」
「うん。でも去り際に捨て台詞を吐いてきた」
「え?捨て台詞ですか?」
「『次は勝手に死ね』って」
新聞を読みながらも昨夜の状況を話す。あの男とのやり取りを思い出すだけで少々腹が立った。
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