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「とにかく!もう六花には関わらないで!このロリコン!」
その捨て台詞を最後に、ママはようやく部屋を出て行った。
それからしばらく様子を見ていたけど、やっぱりママはいないみたいだ。だからよじ登って中に戻ろうとしたのだけど、手の力が限界で動くことが出来なかった。
「雪さーん、雪さーん」
小声で名前を呼んですぐに、そこから雪さんが顔を覗かせる。そして私を見つけると、珍しく驚いたように目を見張った。
「登りたいんだけど登れなくて。落ち……うわっ、」
助けを求めた直後ずるっと足が滑って、思わず手を離してしまった。
するとすかさずガシッと腕を掴まれて、軽々と持ち上げられる。そのまま中に引き込まれたと思ったら、何かに躓いたのか雪さんが後ろ向きに倒れて、無事救出された私は雪さんの上に乗っかる体勢になった。
「ご、ごめんね雪さん!大丈夫!?」
焦る私を雪さんは仰向けに倒れたまま見上げてくる。
すると寝転がっているせいでいつも隠れている雪さんの顔が露わになっていて、思わずぱちりと瞬きを打った。
だって、え?誰?って思っちゃうくらいには別人過ぎて。
戸惑う私を不思議そうに眺めている雪さんは、子供の私でさえドキドキしちゃうくらい格好良かった。
「……あ!ごめんね雪さん。ママが酷いこと言って」
見惚れている場合じゃないことを思い出して謝ると、雪さんは疲れたように溜息を吐く。それが怒っているのだと思った私はしゅんと肩を落として、「ごめんなさい」ともう一度謝った。
「そんなことより、駄目だろ」
「……え?」
「落ちたらどうするんだよ」
そう言ってもう一度溜息を吐いた雪さんは、眉を寄せながらも私を見つめてくる。暗褐色の静かな瞳は、一瞬時を忘れるほどに綺麗だった。
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