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心、叫ぶ
その噂を聞いたのは、雪さんと過ごすようになって二度目の冬を迎えた頃だった。
「この前さ、雪男が全身血だらけで夜中に灰雨を歩いてたらしいぞ」
ママが仕事中のため、今日は日向ぼっこがてら外で終わるのを待っていた。すると聞こえてきたのは、ボス猿が子分と会話をしている話し声。
その方向を見れば、当初よりだいぶ図体がデカくなったボス猿が興奮したように鼻息を荒くしている。
「俺ここ最近、親父の仕事の手伝いで灰雨に行くんだよ。そしたら先輩が雪男を見たって。間違いねぇって」
「灰雨ってヤバくない?しかも全身血だらけって……もしかして雪男ってマフィア?」
「いや、あの見た目でマフィアってことはないだろ」
「でも灰雨だろ?あんなとこうろついてんのなんてマフィアか浮浪者くらいじゃん」
いつもはまったく興味がないけれど、その内容が雪さんとなると話は別だ。
ちなみに灰雨とは、別名"死の街"。闇社会の住人が牛耳っていて、安易に中に踏み込んではいけないと云われている。
迷い込めば最後、たちまち闇ブローカーに捕まって、身体を捌かれて、部位や内臓を売り飛ばされてしまう。ヤクなどのヤバい商売も横行していて、尚且つ海側には闇商売において消されてしまった人間達の死体が巨万と沈んでいるらしい。
警察も簡単に介入出来ない無法地帯。それが灰雨地区だ。
そんな危険な場所に雪さんがいたなんて…。何かの間違いじゃないだろうか。
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