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しかしそれから数日後、信じられない光景を目の当たりにすることになる。
その日はママが夜の仕事で外に行き、雪さんもいなかったので、自分の家で大人しく眠っていた。夢を見るほどぐっすりと寝ていた私は、こうなると滅多に起きることはない。
それなのに、突如、ガタンッ!と大きな音が聞こえてきたせいで、驚きのあまり勢いよく飛び起きた。
「えっ、なに?」
またママが酔っ払って男の人を連れて来たのかと思った。だけどどうやらそうじゃないようだ。
「……雪さん?」
再びガタッと物音がして、それが隣りの部屋から聞こえてきたことに気が付いた私は、慌てて玄関を出る。
そしていつも通り雪さんの家のドアを開けて中に入ろうとした時だった。
「――来るな」
低い声が暗闇の中で響き、踏み込もうとしていた私は石になったみたいに動けなくなる。
それは二年前、初めて雪さんが私に掛けた言葉みたいに。
脅迫と、拒絶の色を孕んでいた。
「雪さん…?」
「帰れ」
絞り出すように名前を呼ぶものの、呆気なく一蹴される。
そこに佇んだまま、キッチンの床に足を放り出すようにして座っている雪さんを見つめた。
真っ暗で何がなんだか分からないけれど、雪さんがぐったりしているように見えるのは気のせいじゃない。そこから視線を移動させて、窓から差し込む月明かりを頼りに状況を観察していく。
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