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「雪さん、それ、なに?」
「……」
「その袋、なに?」
そう尋ねながら指さした先にあるのは、袋に入っている赤い布。
だけどそんなことをわざわざ聞かなくても、さっきからずっと血生臭い匂いがプンプンしているせいで、血だということは分かっていた。
すると脳裏によぎったのは、ボス猿がこの前言っていた言葉。
「……灰雨に行ってたの?」
問えば、雪さんの手がぴくりと揺れる。
勝手に肯定だと見做した私は、迷うことなく玄関横にある電気のスイッチに手を伸ばした。
「やめろ、リツ」
すると私の手を覆うようにして重なった手。その素早さに驚いて動きを止めれば、「やめろ」と、雪さんの声が耳元で囁いた。
「もし見られたらお前を殺さなきゃいけない」
「雪さん…」
「死にたくなかったら帰れ」
「……」
久しぶりに聞く、雪さんの冷たい声。
それは過去のように私を恐怖で縛り付ける……わけもなく。
今更雪さんに怯えることなど、一ミリもなかった。
雪さんの手を払いのけて今度こそスイッチを押した私は、雪さんが反応するよりも早く、勢いよく体当たりをする。
まさかいきなりそうくるとは思っていなかったようで、更に低い姿勢から飛びつかれた雪さんはなす術もなく床の上に倒れた。
「殺せるもんなら殺してみろ!」
そしてその体に跨って胸倉を掴んだ私は、そう怒鳴りつけて、ふんっと鼻を鳴らしてやる。
すると、不意を突かれたように大きくなる瞳。だけどそれよりも、電気がついたことで露わになった雪さんの顔にこびりついている血の方に視線が釘付けになった。
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