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「それ、雪さんの血?」
たった今の威勢が嘘のように、瞬く間に不安が胸に広がる。
そんな私に雪さんは困ったように眉を下げて、「違う」と首を横に振った。
「……本当に?雪さんじゃないの?」
「違う」
「手についてるのも、服についてるのも、袋に入ってるのも、雪さんのじゃない?」
「違う」
「本当に?絶対、違う?」
心配のあまり何度も確認する私に、雪さんは鬱陶しがることなく、「絶対違う」と答える。
そのことに安堵するものの、やっぱりどうしても不安が拭えなかった。
「雪さん、今日だけじゃなくて、前も血だらけで灰雨を歩いてたんでしょう?それってなんで?」
「……」
「なんであんな危ない場所に出入りしてるの?」
本当はこんなこと聞くべきじゃない。雪さんには雪さんの事情があって、踏み込んでいい領域というものがある。
一度拒絶されたのならば、素直に引くべきだ。――そんなことは分かっているのに。
「……心配なんだよ。私、雪さんが想像してるよりもずっと、雪さんのことが大好きだから」
「……」
「それがこんな風に血だらけで、見て見ぬフリなんか出来るわけがないじゃん!」
事情とか、領域とか、そんな大人の都合なんて、子供の私にはどうでも良かった。
私はただ、雪さんが独りぼっちの私を守ってくれたみたいに、少しでも雪さんを支えられる存在になりたかった。
「関係ない」
だけど結局雪さんがポツリと口にしたのは、私の気持ちを跳ね返す言葉。
逸らされた瞳は私を見ることなく、続けて、「出てけ」と無機質な声で吐き捨てた。
「…っ雪さんのバカ!もう知らない!!!」
その態度に酷くショックを受けた私は、逃げるように立ち去るしかなかった。
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