心、叫ぶ

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それから二週間、あれだけ入り浸っていた雪さんの家に行くことはなくなった。というか、行けるわけがなかった。 よくよく考えれば、私が一方的に絡んでいただけのくせに、さすがに雪さんに事情を話せと言うのは図々しかったかなって。 だけどさ、あんな血だらけな姿を見せられたら普通は心配するじゃん。話して欲しいと思うのが普通じゃん。 それなのに二週間私がいなくても雪さんは様子を見にくることもないし、だから結局雪さんにとって私なんて近所のクソガキでしかなかったんだなって。 「おい。お前に面白いこと教えてやろうか」 やさぐれて枝でべしべしと地面を叩いていると、頭上から聞き慣れた声が降ってきた。 「俺の親父が言ってた話だけど、雪男のやつ、もしかしたら闇ブローカーじゃないかってさ。だからお前も気を付けた方がいいぞ。そのうち捕まって、内臓とか根こそぎ売られちまうかもしれないから」 別に聞きたいとも言っていないのに、ボス猿はペラペラと得意げに教えてくる。 その顔を見上げて、「だから?」と聞き返した。 「……だからって、俺はお前に忠告を」 「別にどうでもいいんだけど」 「は?」 「雪さんが闇ブローカーであろうと、例えば殺し屋であろうと、どうでもいいって言ってるの」 「はあ?お前本気で言ってんの?」 「っていうか、それなら寧ろ私から雪さんに頼んでおこうか。ボス猿が雪さんの噂を言いふらしてるから殺した方がいいよって」 睨みつけながらそう言った直後、ボス猿は分かりやすくサーっと青くなる。そして返す言葉が出てこなかったのか、無言のまま踵を返すとドタドタと走っていった。 ボス猿に言われなくてもなんとなくそんな気はしていたので、特に驚くこともなかった。噂の灰雨で、あんな血だらけなのに無傷で、一度ならず二度もあの場所に行っていたこと。それを考慮すれば、闇仕事をしていることは容易に想像がつく。 だから雪さんは私に言いたくなかったのかもしれない。二年前に私が何してるのかを聞いた時も、怖がると思って秘密だと言ったのかもしれない。 「雪さんは雪さんじゃん。今更引くわけないのに」 どんな雪さんであろうと、私は絶対に、ずっとずっと雪さんのことが大好きだ。それだけは胸を張って言える自信があった。
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