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しばらくそこでぼんやりとしていると、ふいに空から白い粒が降ってきた。見上げれば、ヒタリと冷たい感触が肌にこびりつく。
「雪だ…」
どおりで寒いわけだと思って、重い腰を上げた。積もったら、去年みたいに雪さんと雪だるまを作りたいな。私が無理やり連れ出して、私が一人で作ったんだけどね。
喧嘩していることも忘れてそんなことを考えてしまった自分に苦笑しながら、アパートの階段を上っていく。
しかしその途中で、ハタと足を止めた。
「……雪さん?」
階段の一番上に座っているのは、たった今思い出したばかりの雪さん。
雪さんは私の呼びかけに俯いていた顔を上げて、ジッと私を見つめてきた。二週間ぶりに見たその姿に、ちょっと泣きそうになった。
本当だったら、今すぐ雪さんに飛び付きたい。抱きついて、またいつものあの幸せな日常を取り戻したい。
だけどここで私から行ったところで、雪さんがあの夜のことを話してくれるとは限らない。それもそれで、すごく、すごく嫌だ。
「……何?話す気になった?」
だから少し強気で言ってみた。尻尾を振りたい気持ちを我慢して、思い切って。
すると雪さんは、またしばらく無言を貫く。心の中で、言え言え言え言えとひたすら念を送った。
だけど雪さんは私の思いも虚しく、まるでそっぽを向くみたいに、スイと視線を逸らす。
「……雪さんのアホ!もっさりイケメン!!!」
大きな声で吐き捨てると、ドスドスと残りの階段を上って雪さんの横を通り過ぎる。
もう怒った。めちゃくちゃ怒った。私に何も教えてくれない雪さんなんか、もう知らない。
その手に持っているビニール袋に、私の大好きなチョコレートがあろうと。
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