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ママの仕事がある時は、朝、昼、夜、夜中。関係なく、外で終わるのを待っていた。
だけど季節が冬に近付くにつれて外にいることが耐えられなくなり、少しでも寒さを凌ぐために、アパートの中の階段で待つことが増えた。
でもママはアパートの住人に私が夜中に外にいることが見られるのが嫌みたいで、階段にいることを嫌がった。だから二階から立入禁止の屋上へと続く階段で待つことにした。そうすれば誰にも気付かれないから。
今日は夜中に、お酒にベロベロなママと見たことのない男の人がやって来た。私が出て行く前に布団の上に転がる二人に慌てて、うっかり上着を忘れて部屋を飛び出してしまった。
「……寒…、」
少し口を開くだけで真っ白い息が零れて、肌を刺すような空気の冷たさにガクガクと震える。
今日は我慢して部屋の中で待とうかとも思った。玄関の前だったらまだ扉で区切られているし、声は聞こえるものの、耳を押さえていれば最小限に抑えることは出来る。
だけど酔っ払ってる時のママは凄いからな。たまに盛った猫の鳴き声みたいな甲高い声が外にまで届くほど。
帰るか、ここでひたすら耐えるか、悶々と悩んでいた時、徐ろにトントンと階段を上る足音が聞こえてきた。
慌てて身を縮めてバレないようにと息を潜める。
その直後だった。
「――殺すぞ」
感情のこもっていない声が空気を震わせ、ビクッと肩が揺れる。
それは一度も聞いたことのない、若い男性の声だった。
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