心、弾む

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「隠れてるのは分かってる。出てこい」 すぐにそれが自分に向けられているものだと分かった。別に隠れているつもりはないけれど、どうやらその人には私がコソコソと何かを目論んでいるように感じたみたいだ。 とはいえ、暗闇の中にいる私にどうして気が付いたのかは疑問だけれど。 「出てこないのなら殺す」 その静かな声は、はっきりと脅迫を口にした。突如背筋が凍るような恐怖心に襲われて、血の気が引くのを感じた。 別に怒鳴られているわけでも、面と向かって脅されているわけでもないのに。逆らったらダメだと、自然と体が突き動かされていた。 「……こんばんは」 恐る恐る階段を下りていけば、なんとそこに見つけたのは隣りの部屋のお兄さん。 小さな声で挨拶をする私を、お兄さんは何も言わずに見返した。 「あの……ごめんなさい。驚かせてしまって」 なんで私がここにいることが分かったのか不思議でならない。でもそんなことよりも今は、さっきの声がお兄さんの声だったことへの衝撃の方が強かった。 正直、モサモサの見た目なので、もっとおじさんっぽい図太くて低い声を想像していたのに。 どちらかというとスマートで、耳馴染みのいい素敵な声だった。 「お兄さんはこの時間までお仕事ですか?」 一気に緊張の糸が緩んだせいで、今まで話したこともないのに普通に疑問が口を突いて出た。 そんな私にお兄さんはやっぱり何も言わず、かと思えば、その視線をスイと別の方向に向ける。 「……あ」 すると聞こえてきたのは、"仕事"をしているお母さんの高い声。 お兄さんの横顔は、まるでその声に耳を澄ませているみたいだった。
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