心、弾む

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お兄さんは勝手に部屋に入る私に何も言わなかった。 だから子供の私は遠慮することもなく、奥に入っていくお兄さんに続いた。 「うちんちより広く見えるね。荷物が少ないからかな」 イヤホンを片耳だけ外して、薄暗い照明に照らされている部屋をしみじみと見渡す。間取りは同じ1DKだけど、幅の狭いベッドを置いてもまだ寛げるスペースがあった。 「あ。そういえば、お兄さんに渡したいものがあるんだ」 キッチンでお湯を沸かし始めるお兄さんの横に立ち、ズボンのポケットに入れておいた物を取り出す。「はい」とそれを差し出すと、お兄さんは無言のまま受け取った。 「次会った時に渡せるように、チョコ入れておいたの。ほら、お兄さん、いつもボス猿に食べ物を盗られても怒らないでしょ?だから腹ぺこなんじゃないかなあって。私一個食べたから、お腹膨れてるし…」 そこまで話した矢先、タイミングを図ったかのようにグウ〜とお腹が鳴った。ハッと息を飲んでお腹を押さえるものの、朝ご飯を食べてから何も口に入れていないせいで、ぐうぐうと鳴り続ける。 「あ、違うんだよ。私我慢とかしてないよ。どうしてもお兄さんにこれだけは食べて欲しくて取っておいたから遠慮しないで」 お兄さんがチョコを受け取った手を引こうとしないので、慌てて早口で話す。 お兄さんはそんな私とチョコとを交互に見ると、さっきみたいにその場にしゃがみ込んで私と目線を合わせた。 「ラーメン食う?」 そしてやっぱりおじさんっぽくない声で紡がれたのは、クールなお兄さんっぽくない台詞。 そのミスマッチな問い掛けに思わず笑いながら、「食う!」と元気よく頷いた。
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