心、弾む

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どうやらお兄さんは聞き役の方が得意みたいで、私がひたすらペラペラ喋っているのをただ静かに聞いてきた。 迷惑かとも思ったけれど、お兄さんが私の話を聞く時はちゃんと真っ直ぐに目を見てくれるから、それが嬉しくてやめられなかった。ママは大体話し掛けても鏡と睨めっこしているし、あまり喋るとうるさいと怒られるから。 無言でも、じっと私を見てくれる姿に胸が熱くなった。 「きっとママ酔っ払ってて朝まで起きないから、もう少しここにいてもいい?」 カップラーメンを食べ終わり、お兄さんのベッドの上に座りながらもダメ元でお願いしてみる。 するとお兄さんは返事をする代わりに、ウォークマンのイヤホンの片っぽを私の耳に突っ込んだ。 それがOKのサインだとすぐに分かり、さすがに甘え過ぎだと思いつつも、ぬけぬけと布団の中に潜り込む。 床に座るお兄さんの後ろ姿を眺めながら、「お兄さんのお名前、なに?」と尋ねた。 「ゆき」 「……ゆき?って、お空から降る雪?」 雪男と関連性があることに驚きつつも問い掛けると、雪さんは微かに頷く。 「へえ、雪さん……そしたら私と同じだ。私ね、六花(りつか)っていうの。六花って雪の結晶のことをいうんだよ。だから私と同じでしょ?雪と六花。リツって呼んでね」 勝手に自己紹介をした上に、ニックネームで呼んでなんて我ながら図々しい。だけど、せっかく出来た初めての友達みたいで、今更図々しさなんて気にしちゃいられなかった。 「ねえ雪さん、また来てもいい?」 お腹がいっぱいになったからか一気に睡魔に襲われて、ウトウトしながらもそう尋ねる。 もちろん雪さんからの返事はなかったけれど、ダメだと言わないということは来てもいいのだろう。 勝手にそう解釈した私は、久しぶりに幸せな気持ちを味わいながらも、温かい布団に包まって眠った。
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