心、弾む

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その日から私は雪さんに付き纏うようになった。と言っても、ママに見られたら怒られるのでママがいない時だけ。 ママが夜の蝶になっている時とか、ママが寝ている時とか、ママがお家で仕事をしている時とか。 そしたらなぜか、一日の大半を雪さんの家で過ごすようになっていた。今までこんなにも一人ぼっちの時間があったんだなあと初めて気が付いた。 もちろん雪さんがいない時もあった。そんな時はキッチンの小窓から入って、雪さんのウォークマンを聴きながら雪さんのベッドで過ごした。 そうしているうちに雪さんが帰ってくるのだけど、私がいることが分かっても、雪さんは何も言わなかった。 何も言わずにご飯を用意して、何も言わずに私の話を聞いて、何も言わずに布団で横になる私に掛け布団をかけてくれる。 それがまるで甘えてもいいのだと受け入れてもらえているみたいで、ただただ嬉しかった。 「雪さんはいつも何してるの?」 とある日の夜、一緒にご飯を食べながらずっと気になっていたことを聞いてみた。 今日の献立はご飯とハムエッグとキャベツと、あとよく分からない葉っぱのスープ。それはこの近辺に住んでいる人間からすれば、すごく贅沢な食事だった。 雪さんは私の疑問に食べる手を一瞬止めたものの、またすぐにキャベツを口の中に放り込む。 「だってお家にいない時間がいつも変わるでしょう?日中だったり、夜中だったり。だから何してるのかなあって」 「秘密」 「えー。そんな風に言われたら益々気になっちゃうよ」 口を尖らせる私に、雪さんはそれ以上は喋らない。だけどいつも滅多に声を発さない雪さんがはっきりと答えたということは、きっと触れて欲しくないのだろう。 だからもう詮索するのはやめた。詮索したらきっと、雪さんはもう私と一緒にいてくれなくなるだろうから。 唯一心が安らぐ場所を失いたくなかった。
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