第1章 甘さの加減は初級編

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「ありがとう、沢口さん。さすがの出来ですね」  私が絞ったクリームを惚れ惚れ眺めて大きな笑顔を向けてくれるのは。相変わらずの王子様。 「いえ。まだまだです」 「はは。謙虚ですね」  ホットミルクを作ってくれたあの日以来、とくに進展はない。というか、私がもう恋愛モードじゃなくなってしまったから。前みたいに過剰に反応することもなくなっていた。  そういえば縁談の話が結局どうなったのかは未だにわからないままだった。けれど結婚の報告などは特になく、今やそのことはすっかり忘れ去られた雰囲気だった。 「もっと自信持ってもいいのに」 「いえ。満足したら終わりですから」 「はは。参ったね」  この笑顔は未だに素敵だなとは思う。だけどそれはもう以前のような恋愛感情じゃない。言うなれば『憧れ』みたいなものに近い。  やっと吹っ切れた。そう思った矢先だった。 「昨日父から正式に跡継ぎの話があって。今後しばらくの間、本店(ここ)に来るのは月に一、二度くらいになりそうです」  まさかのことだった。  稲塚さんがいなくなる。  考えてもみないことだった。
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