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「あーあ。もっと苦しめるつもりだったのに」
意図せずにそんな落胆が零れる。しかし我に返って自分の姿を眺めてみると、それはもう酷い有り様だった。
全身血まみれで、白いワンピースは赤いワンピースになっている。だから冬也くんに白は嫌だって言ったのに、油断させるなら断然白だろ、なんてよく分からない意見を押し付けられた。
いや、今はそんなことより女の子だ。
「……えっ。ちょっと!大丈夫!?」
すると、立ち上がって女の子を見下ろした矢先、その様子に目を見開いた。
私がここに来た時は、女の子はぼんやりと天井を眺めていた。それは恐らく薬を打たれ過ぎたせいで、正常な思考が壊れてしまっているから。
しかし今は瞼を閉じて動かない。揺さぶっても反応せず、口元に耳を近付ければ、今にも消えてしまいそうなほどに浅い呼吸だった。
まずい。すぐに病院に連れて行かなければ。
そう思うものの、こんな状態で救急車を呼べるわけがないし、連れて行ったとしてもなんて説明すればいいのか――
「……あ」
すると突如頭に浮かんだのは、自分でもよく思い付いたなと思うほど、そこまで深い関わりを持たない"彼"の顔。
"もし何かヤバい怪我したらいつでも俺んとこおいで。愛ちゃんなら可愛いからタダにしちゃう"
そう言いながら爽志さんが差し出したのは彼の病院の名刺だった。
一度見た番号は覚えてしまうので、彼ならばなんとか対応してくれるんじゃないかと藁にも縋る想いで、それをスマホに打ち込む――が。途中でハタと手を止めた。
だって爽志さんと狼は関わりがあるので、もう狼と会わないと誓ったばかりなのに、もしかしたらまた会ってしまう可能性もあるわけで…………いや。今はそんなことを言っている場合じゃない。
とにかく女の子を救いたい一心で、思い切って発信ボタンを押した。
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