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「君は犯されることが嫌なのに、こんなにも感じてしまうんだね」
"苦しい"で埋め尽くされる脳の隙間に、吹き込まれる声。
自分でも自覚していることを、今この状況で帳の口から改めて突き付けられることは、死にたくなるほどの苦痛を与えた。
幼い頃から、父親のみならず他の男達にも強制的に相手をさせられた。
無理やり屈服させられて心が死んでいく一方で、中には快楽を植え付けようとする奴もいて、私の意思とは裏腹に体に刻み込まれる。
そんな自分が気持ち悪い。心は嫌なのに、体は快感を貪る。そのちぐはぐな感覚がどうしようもなく気持ち悪くて、嘔吐感が込み上げてくる。
「――うえっ…、」
猿轡を取られた瞬間、我慢の限界で横を向いて吐く私に、帳は驚いたように目を見開いた。
「吐いちゃったね。苦しい?」
「……っ、死ね」
「……はは。ちょっと可哀想だと思ったのに。生意気な子には罰を与えないとね」
もはや激しい憎悪しか感じない。憎くて、憎くて、今すぐ息の根を止めてやりたい。
睨みあげる私に帳は歪んだ笑みを浮かべると、自分も服を脱いで私の上に伸し掛かってきた。
その重さに押し潰されそうになりながら、目をぎゅっと閉じて込み上げてくる嘔吐感に耐える。
すると不思議なことに、瞼の裏に浮かぶのは、"ほら見たことか"と嘲笑する幼い時の自分の姿だった。
こうなることが嫌だったから、奪われる側じゃなくて奪う側に回った。
父親や他の男共に虫けらのように扱われていた時と同じ想いをしないために、殺し屋になった。
自分だけを守っていれば、こんな風に虐げられることはなかった。
だから嫌だったんだ。
他人と関わると碌なことがない。
優しくされて、もしかしたらこの人は大丈夫かもしれないなんて浅はかな考えを持ってしまうからこんな目に遭う。
ぎしぎしと揺れるベッドの上、激しく腰を振る帳に組み敷かれながら、ぼんやりと天井を眺めて誓った。
もう狼とは関わったらいけない。近づいたらいけない。
自分を守るために、優しくされた記憶は捨てるんだ。
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