205人が本棚に入れています
本棚に追加
夜中の一時。ロングコートに身を包み、白い息を吐きながら、目の前に佇むマンションを見上げた。
冬也くん曰く、五階の一番端の部屋に昨日冬也くんが電話で話していた行方不明のA子が監禁されているらしい。
「……痛、」
早速任務を遂行しようと足を踏み出した矢先、下腹部に鈍痛が走って思わず顔を歪めた。
そこをさすれば、嫌でも昨日の出来事を思い出してしまう。
あれから一晩中帳に抱かれたせいで、体のあちこちが痛くて仕方がない。あれだけ追い詰められれば下腹部に影響があるのは必然で、解放された時にはあまりの激痛に動けなかった。
『これで今回の件は無かったことにしてあげる。もうあの男に会ったらダメだよ』
まるで自分のもののようなその発言に腹が立ったものの、食いつく気力も湧かなかった。
監視カメラに残らないようにと階段を上り、目的の部屋を目指す。
冬也くん情報によると、その部屋にA子の彼氏と複数の男が出入りしていたらしく、もしかしたらそこでAVを録っているんじゃないかという見解だった。
夜中であるため、すれ違う人は一人もいない。
部屋の前まで到着した私は、着ているロングコートを脱いで死角になるところに放り投げてから、コテで巻いてある長い髪を指にくるくると巻きつけて髪型を整えた。
たった今の恰好は白いニットワンピ。胸元はざっくり開いていて、丈は屈んだら普通にパンツが見えそうな長さ。
どこからどう見てもこれから人殺しをする人間には見えない。それが今回の狙いだった。
最初のコメントを投稿しよう!