あの日戦火の中で

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 ミープは両親のもとに帰りたかったけれど、体が弱かったこともあり結局里親一家と共に2年後大きな街アムステルダムへと移住した。  この街はとても活気に満ち溢れていて、ライデンのように川ではなく運河が至る所に張り巡らされている。  中央駅から美しく引かれた運河には、往来する舟の数も多くウィーンと同じ地平の上にこの街があるなんて、とても信じられない光景に胸がときめいた。  それでも瞼を閉じれば両親の姿が甦り、彼女は自分を戒める。今の幸せは、彼らが導いてくれたのだと。  移り住んで5年後高校を卒業したミープは、すぐに働きに出た。  里親のためにも、そして何よりウィーンの両親に仕送り出来ることが恩返しだと思っていた。  ミープは事務仕事をきちんとこなしながら、家では本を読んだりしながら、運河を往来する舟のゆったりとした眺めを見るのが好きだった。  ここでの喧騒は、戦火の中の騒がしい物音とは全く違って不安な気持ちをかき消してくれる。  でも心の奥底で、自分だけが幸せでいることの、安全であることへの罪悪感は消し去ることはできないのだった。
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