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「早く続けろよ!」という声に、再び女の子が台詞を口にする。その声は震えていて泣いている様子だった。
「あーもう!いちいち泣かないでくれる!?泣きたいのはこっちなんだけど!」
「ご、ごめ…、なさ」
「そんなクソみたいなメンタルだから本番でNG連発すんだよ!……だから泣くなっつってんだろ!下手くそ!」
「…、」
「ほら読めよ!」
再びバチンと叩く音。
ここまで聞いていたら嫌でも分かった。この前相良さんに聞いた話によると、浅羽さんは子役時代から母親がマネージャーをしていて、今ではその母親が事務所を立ち上げて社長をしているらしい。
つまり最近上手く演技が出来ない浅羽さんに対して、マネージャー兼社長である母親が責めているところだろう。
その後もスパルタな指導は続く。いや、指導というよりも、ただの暴力だ。下手くそ、カス、ゴミ、死ね……云々を繰り返し、バチンと叩く音。
母親のストレス発散をしているとしか思えず、酷く不快だった。
さすがに止めに入るべきか。
浅羽さんの泣き声が大きくなり、居ても立ってもいられずに足を踏み出す。
しかしそれよりもスっと先に動いたのは、先ほどから静かに様子を観察していたシュリさんだった。
土足厳禁と書かれているにも関わらずにヒールで入っていき、カーテンを勢いよく開ける。そこには涙を流しながら床に座り込んでいる浅羽さんと、スーツ姿の女性。
突然のシュリさんの登場に目を見開いたその人は、俺とシュリさんを交互に見て、「え、何?」と動揺を露わにした。
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