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嘘だろ、と思う。
だってまさか、そんな……
「シュリさん!」と叫ぶ志季さんと、ただただ信じられず固まる俺。
男もどうせ止まるだろうと思っているのか動こうとはせず、シュリさんもまたスピードを緩めない。
ほんの数秒が、まるでスローモーションのように感じた。
「なんだ。根性なしね」
そして車がギリギリ目前まで迫った時、折れたのは向こうの方だっだ。
間一髪横に飛んだ男は轢かれずに済み、シュリさんはそのまま車を走らせる。
その口元はおかしそうに笑っていて、それを目の当たりにした途端、ゾクリと悪寒が走った。
だって、死んでいた。あのスピードで突っ込んでぶつかっていたら、男は確実に。
あんな風に飛び出してくる男もおかしいが、人を殺しかけておいて笑っているこの女はもっとどうかしている。
「光冴、掴まってろ」
「……はい?」
するとふと志季さんが声を掛けてきて、不思議に思いながら見ると、その顔は真っ青だ。
たった今の出来事で具合が悪くなったのかと心配になった直後、グンッと車のスピードが一気に上がった。
「シュリさん!安全運転!安全運転でお願いします!」
「ちゃんと車をよけて走ってるけど」
「何度も車線変更しないでください!」
「そしたら前の車にぶつかるわ」
「スピードを落とせばぶつからないでしょう!」
「ゆっくり走れと?はぁ…あなたってほんとにつまらない男」
「…っだから!ぶつかるって!」
だけどどうやら志季さんは彼女の危険極まりない運転を見越して青ざめていたようだ。
シュリさんは大きな声で訴える志季さんを軽くあしらいながら猛スピードで車を走らせ、無茶な車線変更を繰り返す。それも急にハンドルを切って移動するので車の揺れ方がえげつない。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ志季さんと、真顔のままカーレースばりの運転をするシュリさん。
俺は今見ている光景が信じられず、言葉をなくして呆気にとられるしかなかった。
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