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「でもそれって問題にならないんですか?モデルってイメージが大事でしょう。下手したらすぐに干されますよね」
「金だよ、金。事務所の社長がぜーんぶ金で解決する。その社長が曲者で、あの業界のお偉いさん達をみんな手懐けてる。プロデューサーもそうだし莫大な資金を提供してくれるスポンサーまで、みんな社長のバッグについてんだよ。んでその社長の大のお気に入りがシュリさん」
「だから、なんでも許される?」
「そりゃな。今や事務所を支えているのもシュリさんみたいなもんだし。例えば日本で転けることがあっても彼女は世界が求めるスーパーモデルだ。彼女が広告塔であるハイブランドを身につければ、セレブ達が寄ってたかって買い占める。それにあの勝ち気で人に媚びないところが好きだと言うファンも大勢いるから、ちょっとイメージが悪いからって簡単に切られたりしないんだよ」
「それで志季さんは事務所に念書を書かされたわけですか。彼女の性格破綻ぶりを口外しないように」
「お、性格破綻。なるほど。完全に的を得てるな。自分自身の行動をコントロール出来ず衝動性が高く、強い刺激が好きでスリルを求める。まさに精神病質の特徴だ」
「……勘弁してくださいよ」
まさか依頼主がサイコだなんて冗談じゃない。
これからの気苦労を想像して肩を落とす俺に、志季さんはおかしそうにクスクスと笑みを零した。
「とにかく一番気をつけなきゃならないのは、シュリさんの目のつく所に凶器を置いておかないこと」
「それって僕達の仕事じゃないですよね」
「そうなんだけどな。人を守る仕事柄、怪我人が出るのは事前に防がなきゃならないだろ」
「……それはそうですけど」
「そしてもう一つは彼女にハンドルを握らせないこと。最高180キロ出された時は死を覚悟したね」
「ひゃ、180…。いや、それならもう一緒の車に乗らないべきでは?というか普通、我々は別の車で後をついていくじゃないですか」
「後をついて行こうとしたら、追われていることが楽しくなってしまったらしくめちゃくちゃに逃げられた。完全にカーチェイス状態だよ」
「まじかよ」
ダメだ。異質過ぎてついていけない。
思わずタメ口で突っ込んで項垂れる俺に、けれど志季さんは気にすることなく、ハンドルを叩いて楽しそうに笑った。
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