5人が本棚に入れています
本棚に追加
しかしながら、仕事のスイッチが入った時の彼女は凄かった。
ショーが行われるステージの下で警護にあたるのだけど、その時は会場内の空気が明らかに変わった。
ざわりと騒がしくなる観客達。衝撃を受けて感嘆の声を零す者や、恍惚とした顔で見とれる者や、興奮して思わず立ち上がる者。
熱気に包まれる中ステージを颯爽と歩く彼女は、他のモデルとは比べものにならないほどの圧倒的な存在感だった。
正直ファッションには興味がないし、どんなモデルが一流と呼ばれるのかも知らない。
しかし、シュリさんを見ているとなんとなく分かる気がする。高いピンヒールを履いていても綺麗に伸びた背筋は一切ブレず、一歩一歩の足の運び方まで洗練されていて、自分を魅せながらも身に纏っている衣装を輝かせる。
何より自信に満ちた凛とした顔立ちが、彼女の美しさをより一層引き出していた。
これがトップモデルの貫禄かと突きつけられるほど、たったの数分の出番が鮮烈に目に焼き付いて離れなかった。
「かっこいいよな、シュリさん」
ショーが終わり、シュリさんの控え室の前で待っていると、志季さんがぽつりと呟く。
「性格はサイコだけどさ、仕事に関しては真っ直ぐなんだよ」
「僕の中では今のところ性格に相殺されてますけど」
「あのスタイルを維持するのってどれだけ大変で過酷だと思う?日々食生活に気を使って、僅かな時間でも体を鍛えて追い込んで、少しの汚れも許されず常にピカピカの状態を保たなきゃならない」
「それは確かに凄いとは思いますけど、それだけ仕事に真っ直ぐならばイメージが崩れるようなことを仕出かさない注意を払うべきでしょう」
「はは、ど正論」
思ったことを淡々と言うと、志季さんは笑いながら頷く。
そもそもこの数年近くで見てきた志季さんが一番振り回されていて大変だろうに。
最初のコメントを投稿しよう!