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朝早く、ネクタイを締めながら廊下を進む。
誰かと通り過ぎるたびに挨拶を交わし、会長のいる部屋に辿り着いて扉をノックしようとした矢先、「よ、光冴」と声を掛けられて手を止めた。
「志季さん。おはようございます」
「おー。はよ」
そこに立っているのは俺と同じ身辺警護をしている会社の先輩。
ふぁ、と眠そうに欠伸をする志季さんは、不規則な仕事柄に加えて常に仕事が立て込んでいるので、満足に休めていない様子。
しかし皺一つないスーツを着てきっちりと身なりを整えているところは、さすがベテランのボディーガードだ。
「聞いたぞ光冴。お前今日から俺と同じ依頼人につくんだってな」
「はい。よろしくお願いします」
「ほんと忙しい奴だな。昨日の夜イタリアから戻って来たんだろ」
「そうです。ミラノに三ヶ月間」
「さすが何人もVIP抱えてるやつは違うな。あちこちから引っ張りだこ」
「いえ。俺なんてまだまだです。今日からしばらく志季さんのそばで勉強させてもらいます」
「ばーか。人気ナンバーワンが嫌味かよ」
志季さんに比べたら俺のレベルなんて高が知れている。だから志季さんと同じ依頼主に付けるなんて、これほど勉強になることはなかった。
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