サイコ的ラブゲーム

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依頼主がいる現場は、足を踏み入れることを躊躇うほどの慌ただしさだった。 志季さん曰く、明日大規模なファッションショーを控えていて衣装合わせやリハーサルで忙しいのだとか。 俺らの仕事は彼女が現場に入る前と帰る時の警護と、家に送り届けた後に出掛けるようなことがあれば共に行動すること。もし家にいる間に何かあった時にも常に対応出来るよう、連絡を取れる状態にしておかなければならない。 それだけで途方もない報酬になるが、世界的なモデルにとったら大した額ではないのだろう。 「あそこにいるのがシュリさんだ。で、隣りにいる男性がマネージャーの相良(さがら)さん。もうそろそろ帰る時間のはずだから……あ、来た」 志季さんが説明してすぐ、ステージの隅にいた二人が動くのが見える。 するとそれまで動き回っていたスタッフ達が一斉に足を止めたかと思うと、深々と頭を下げて「お疲れ様です!」と口々に挨拶をした。 その間を歩いてくる彼女は、頭を下げる人達に目もくれず、サングラスをかけてヒールを鳴らしながら歩く。方や後ろに続くマネージャーは何度も会釈をして「お先に失礼します」と礼儀正しい。 その光景を見ていると、なんとなく志季さんが言っていたヤバいの意味が分かった気がした。 それは、成功した人間に多く見られる特徴だ。 自分は何をしても許されると、我儘で、自己中で、常に上から目線。 きっと彼女はそういった女王様タイプで、それを近くで見てきた志季さんもまた、理不尽な扱いを受けてきたのかもしれない。
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