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しかしゲートを目前にした時、ぎゅうぎゅうとひしめくファン達の中から一人だけ外れるようにして、ぽんっと男の子が飛び出してきた。
まだ小さく、六歳くらいだろうか。すかさず親がいないか確認するもののどこにも姿はなく、恐らくファンの山に埋もれてしまっているのだろう。
道を塞ぐようにして立つその子に警備員が近付いて行き、端に寄るように誘導しようとする。
しかし男の子は首を横に振り、その男性の横をすり抜けると、こっちに向かって走ってきた。
もちろん相手が小さな子供であれ、常に警戒しなければならない。俺はシュリさんの前に立ち、他の警備員が男の子を捕まえようとした。
「いいわ、どいて」
けれどそれを制したのはシュリさん本人。俺にそう声を掛け、続けて他の警備員に下がるように首を動かした。
男の子はシュリさんの前に立ち、シュリさんは後ろで手を組み男の子を見下ろす。
「……相良さん。まずくないですか。シュリさん男の子のこと殺したりしませんか。大丈夫ですか。引き剥がしますか」
「伊吹さんの中でどれだけシュリさんやばい人になってるんですか」
「夢で見たんです。空港のセキュリティゲートを潜るとシュリさんは通れず、持ち物を調べたらナイフやらピストルやらを大量に服の中に隠し持っていたんです」
「夢の中まで追い詰められてるじゃないですか。伊吹さんちゃんと休めてますか」
話しながらも、男の子を救出するための姿勢は忘れない。
あんな幼い子を前にしてもにこりともせず真顔で見下ろすシュリさんは、自分のペースを崩された苛立ちをどうぶつけるのか思案しているみたいだった。
誰もが固唾を飲んで見守る中、突如男の子がスッと腕を上げて、持っているものをシュリさんに差し出す。
それは一輪の赤い薔薇だ。紙で包まれていて、茎のところには可愛らしくリボンが巻かれている。どうやらそれを渡したかったらしい。
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