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けれど、この冷血な魔女が花をもらって喜ぶはずがない。
冷静にそんなことを考えて眺めていると、シュリさんは徐ろにサングラスを外し、露わになった大きな瞳で男の子をじっと見つめた。
そして予想外にも手を伸ばして贈り物を受け取る。まさか貰うと思っていなかった俺は、思わず目を瞠った。
しかし次の瞬間、シュリさんはリボンをほどいたかと思うと、花を巻いている紙をビリビリと破き始めた。
これには一同唖然。男の子もポカンと口を開けて、シュリさんを見上げる。そりゃそうだ。せっかく用意したプレゼントが、まさかそんな酷い扱いを受けるなんて。
シュリさんの足元には破られた紙が散らばり、なんとも言えない空気が流れた。
しかし相変わらず奇天烈な彼女は、何も身につけなくなった薔薇をゆったりと眺めると、薔薇と同じくらい赤い唇に微笑を浮かべる。
そして再び男の子に視線を向けたかと思うと、身を屈めて、固まる男の子のおでこにキスをした。
触れたのは一瞬、至近距離で視線を絡ませて「いい子ね」とシュリさんが囁けば、男の子は顔を真っ赤にして鼻の下を伸ばす。
あの年の男の子でさえ手玉に取るなんて、なんて恐ろしい魔女だ。
そして再び歩き始めたシュリさんは、ゲートを潜る前に振り向くと、薔薇にキスをしてからファンの前から姿を消した。
すると今までの比じゃないほどの悲鳴が巻き起こり、それはゲートを離れてからもやむことはない。
どうやら彼女にかかれば、紙を破くというクレイジーな行為すら一種のパフォーマンスになるらしい。
「意外でした」
「何が?」
「子供好きなんですね」
飛行機に乗り込んでもまだ薔薇を眺めているシュリさんに話し掛けると、ゆっくりとその目が俺を向く。
「いいえ、嫌いよ」
「え?」
「子供はこの世で三番目に嫌い」
「……いや、でも薔薇を」
「薔薇は好きなの。世界一美しい私に相応しいから」
「……」
子供相手には優しいのだと思い込み、ちょっとだけいい所もあるじゃんと思った俺がバカだった。
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