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「シュリさん、蛇苦手なんですよね」
するとさっきからずっと隣に立っていた相良さんが、思い出したようにぽつりと呟いた。
「え?」と横を向けば、相良さんは心配そうな顔をシュリさんに向けている。
「シュリさん、蛇だけは駄目なんです。豹と撮ったり、その他の生き物は全然平気なのに、唯一蛇だけは本当に駄目で、デビューした時にNGだって言ってあるくらいです。まぁでも、普通はモデルが危険な動物や生き物と絡むことは滅多にないんですけどね。世界中で活動していると色んな仕事が絶えなくて」
「へぇ…意外ですね。そもそもシュリさんって怖いものなさそうなのに。え、でも、今普通に撮ってますよね」
「内心ではかなりしんどいと思いますよ。昨日の夜も眠れなかったみたいですし。だけどそういうところを一切見せないのがシュリさんなんです。この仕事の話がきた時は基本的にタレントを守る義務があるので僕も社長も断ろうとしたんですけど、シュリさんがやるの一点張りで」
「でもNGなんですよね?」
「ブランドの広告塔を担ったからには、どんな要望にも応えるべきだと。そういう所がシュリさんのかっこいい所なんです。アジア人が世界中から必要とされるなんて一体どんな手を使ったんだと言われたりもしますが、シュリさんがどんな仕事も受け入れ、多くのクライアントに信頼されて勝ち取ったからこそ今の彼女があるんですよ」
「……なるほど」
話に耳を傾けながらも、シュリさんを見つめる。
挑発的な眼差しをカメラに向けたり、蛇の頭に触れながら流し目を向けたり、足を組み頬付けをつきながら蠱惑的に笑ったり、一枚一枚が絵画のように綺麗で鮮烈に目に焼き付く。
決して苦手なようには見えず、そのプロ根性は純粋に凄い。
「信じられない話ですけど、昔大量の蛇がいる部屋に閉じ込められたんですって」
「……はい?」
「そりゃトラウマにもなりますよね。……あ。ちょっといってきます」
相良さんは関係者が近寄ってくるのに気が付くと、会釈をしてから歩いていく。
その爆弾発言に、一瞬何を言われたのか分からなかった。
……蛇だらけの部屋に閉じ込められた?って、何?子供の頃ってこと?……え?そんなこと、普通に生きてる上であんの?どんな世界?
考えれば考えるほど理解出来ず、結局相良さんは戻って来ず、その後ずっと頭の中にははてなマークが浮かんでいた。
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