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シュリさんは特に何もつままず、黙々とワインを飲み進めた。いつも二人になると必ず絡んでくるはずだけど、そんな様子もなく、頬杖をつきながら視線はテーブルの上を向いたまま。話し掛けるなという空気をヒシヒシと感じる。
だからもしかして、さっき相良さんの言った通り、トラウマを思い出してヤケ酒をしているのだろうか。
それから数回グラスが空き、ようやくボトルが空っぽになった時、シュリさんは「もう一本」と注文した。
しかしなんとなくそうなるだろうと予想していた俺は、すかさず「シュリさん、もうやめましょう」と止めに入った。
「ワインはもういいです。すみませんが水をいただけますか」
「ちょっと。勝手にやめてよ」
「どれだけ飲むつもりですか。明日二日酔いで飛行機に乗ることになりますよ」
「二日酔いにはならないわ。酒豪だから」
「さっきから酒豪酒豪言ってますけど、酒豪はそこまで顔が真っ赤になりませんし、さっきなんてボトルを掴もうとして何度もからぶって空中を掴んでましたよね」
「何でそんなに見てるのよ。私のことが好きなの?」
「いえ、まったく。とにかくシュリさんもだいぶ疲れているでしょうし、早く部屋に戻って寝た方がいいですよ」
「今日は飲みたい気分だし、寝たくないのよ」
「それはトラウマを思い出してしまうからですか」
「……何?」
「蛇、苦手なんですよね」
そのことに触れるつもりはなかったけれど、早く撤退するには、本人からヤケ酒をする理由を聞き出した方が解決すると思った。
するとシュリさんは一瞬不意を突かれたように目を見開いたものの、すぐに無表情に戻ると、「相良のやつね」と零す。
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