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「別に、トラウマだというほど追い込まれていないわ。ただ蛇はこの世で二番目に嫌いってだけで」
「……二番目?一番じゃなくて?」
この前もそうだったけれど、やたらと嫌いな順位がはっきりしている。確か子供が三番目だったっけ。
そのことを純粋に疑問に思って尋ねれば、シュリさんは俺を見つめたまま、「一番は…」と呟いた。
しかし、そこからなかなか口を開こうとしない。その目はゆっくりと俺から逸れて、宙を泳ぐ。まるで何かを考えるみたいに。
不思議に思って「シュリさん?」と声を掛ければ、はっと我に返ったように再び俺を見た。
「……散歩したいわ」
「はい?」
「お会計、これで払っておいて」
そしてようやく喋りだしたかと思えば、あまりにも脈絡がない。
訳が分からず固まる俺を差し置いて、シュリさんはガタッと立ち上がると、俺に自分の財布を押し付けて歩き始めた。
「え、ちょ、ま、シュリさん」と慌てて後を追い掛けようとしたけれど、会計を思い出し、だからといって人の財布を開けることに抵抗があるので、仕方なくジャケットから自分の財布を取り出す。
なんとか追いついた時、シュリさんは「足が痛いわ」と徐ろにヒールを脱いだ。
「シュリさん、待ってください。どこに行くんですか」
「夜風に当たりたいの」
「いや、外は駄目ですよ。こんな時間に危険なので行かないでください」
「私に指図しないで」
「指図じゃないです。お願いしてるんです」
「あなたは部屋に戻ってちょうだい」
「シュリさん」
こンの我儘クソ女、と心の中で罵りながらシュリさんの手を掴んで引き止める。
ようやくこっちを向いた彼女は、煩わしげに俺を見上げた。
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