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「……シュリさんって小さいんですね」
すると意図せず俺の口から勝手に漏れたのは、驚きが混じった声。
そんな俺に、シュリさんは「は?」と眉を顰めた。
「何?私の器が小さいとでも?」
「あ、いや違いますよ。身長です。なんかいつもと全然目線が違うから、ちょっとびっくりして」
そう。パッと見で分かるほど、いつもよりも身長差がある。これまで俺と並ぶ時は必ずヒールを履いていたから気付かなかった。
「私は小さくないわ。あなたが大きいだけよ」
「いつもヒール何センチの履いてるんですか」
「八センチくらいよ。ショーの時はもっと高いけど」
「そうですか。こんなにも変わるんですね」
俺の真正面に立ち、俺を見上げてくる顔を見下ろす。身長差があるせいか自然と上目遣い気味になる大きな瞳は、いつもの威圧的な空気をあまり感じさせなかった。
「今私のこと可愛いと思ってるでしょ?」
「はい?」
「お酒で顔が赤くて、思っていたよりも小さくて、普段とのギャップにグッとくる男は多いもの。いいのよ?我慢せずにこのまま部屋に連れ込んでも」
「シュリさんの部屋まで送ってから自分の部屋で寝ます」
「そう。だったら散歩しに行くわ」
「どうしても行くと言うのなら担ぎます」
「担ぐの?」
「はい」
「じゃあ散歩しに行こうっと」
シュリさんは意気揚々とそう言うと、両手でヒールを持ち、裸足のまま歩き出す。
その後ろ姿を眺めて数秒、めんどくせぇなと苛つきながらシュリさんの後を追い掛けると、宣言通り、膝の裏と背中に腕を回して持ち上げた。
「力持ちね」と笑うシュリさんに、はあ、と溜息を吐く。
「私、生まれて初めてお姫様抱っこしてもらっちゃった」
「そうですか」
「今まで抱えてきたどんな女よりも軽いでしょ?」
「今まで誰も抱えたことがないです。あなたみたいに手の掛かる女性は一人もいなかったので」
「そう。それなら私が光冴の初めてをもらった責任を取ってセックスしてあげる」
「そのうるさい口を閉じなかったら落としますよ」
「させないわ」
降りてたまるかというように、シュリさんは俺の首に腕を回す。柔らかい髪が頬を掠め、酒の匂いと、いつもの甘い花の香りが鼻腔をくすぐった。
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