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「……え。寝んの早」
声が聞こえてこないことに気が付き顔を上げると、なんとシュリさんは目を閉じて寝ている様子。
しかしなんとなく寝たフリな気もしてそろりと近付いてみると、スースーと静かな寝息が聞こえた。どうやら疲労と酒の力ですぐに落ちたみたいだ。
ようやく安心して部屋に戻れると立ち上がり、ベッドの明かりを消す。けれど再びシュリさんの寝顔を見たら、ふとさっきのことを思い出してしまって、思わずもう一度椅子に腰掛けた。
さっき、とは、一番目に何が嫌いなのかを話した時のこと。それは、そんなに大した内容じゃなかったし、さほど難しい質問でもなかったはずだ。
しかしシュリさんは答えなかった。何かを考えるように黙り込み、最終的には分かりやすく話を逸らした。いつもズバズバとモノを言う彼女が、口にすることを遠ざけたのだ。
だからきっと、口にすることも嫌なほど嫌悪しているものなのか。はたまた、思い出したくもないほど恐ろしいものなのか。
日本を発つ前、志季さんに育った環境がどうとか聞いてしまったから尚更、そこに深い事情がある気がしてならなかった。
だからといって、俺は何も関係ないのだけど。ただの依頼人とボディーガードであって、深く知るつもりもなければ、関わるつもりもない。
ただなんとなく、今だけは、彼女が深い眠りにつくまでもう少しそばにいてあげようと思った。
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