サイコ的ラブゲーム

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無事海外出張が終わったものの、普通であれば休暇が数日あるところを、シュリさんの場合は帰国後翌日には仕事があったのでもちろん俺も休みがなかった。 時差ボケで頭が働かない中なんとか起床して、シャワーを浴びて目を覚まし、スーツに着替える。 もちろん休みがいらないわけじゃない。寧ろ普通に欲しい。めっちゃ欲しい。一日中爆睡したい。一週間ベッドの上で過ごしたい。 けれど基本的に俺が行う仕事は、二十四時間常に警戒する必要がある身辺警護だ。プライベートであれ依頼主からの連絡に何時も備えなければならないので、睡眠は浅く短く、夜から朝まで満足に眠ることさえ出来ない。割とメンタルと体力が削がれる仕事だ。 体が基本となるので朝食をしっかりめに食べて、ネクタイを締めて腕時計をつける。準備を終えて出掛ける寸前、携帯の着信音がした。 画面を見て、一瞬固まる。しかし出ないという選択肢はなく、一度息を吐いてから、「もしもし」と電話に出た。 すると、『久しぶり』と聞こえてくる声。こうして話すのは三日前の電話以来だ。そこまで久しぶりではないが、「久しぶり、里穂(りほ)さん」と答えた。 『ねぇ。次はいつ会えるの?』 「明々後日が休みだから会いに行くよ」 『本当?明々後日、いつ頃来れる?』 「昼頃には行けると思う」 『わかった。楽しみにしてる』 「うん。これから仕事だから」 『そっか。頑張ってね。仕事が終わったら電話してくれる?』 「うん、わかった。電話するよ」 話しながら靴を履き、鍵を持って玄関の取っ手に触れる。電話を切ろうとスマホを耳から離そうとすると、『あ、まって』と引きとめられた。 続けて、『愛してるわ』と照れくさそうに伝える声が届く。意図せず、手がぴくりと揺れた。 いつも、そう。彼女は電話を切る際、必ずその言葉を口にする。その度に俺は、胸に何かが突っ掛かっているような息苦しさを覚えた。 「……俺も、だよ」 なんとか声を搾り出せば、嬉しそうな彼女の笑い声が耳をくすぐる。その声から逃げるように、「じゃあ、また」と告げると今度こそ切った。 出張の疲労のせいか、たった今の電話のせいか、家を出て仕事に向かう足取りはやけに重たかった。
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