5人が本棚に入れています
本棚に追加
「怒ってるわ、とても」
「え?そうなんですか?」
「だって光冴と二人っきりで過ごす時間が削られるもの。撮影が押すたびに苛々するし、子供は嫌いだし、とっととこの現場から解放されたい」
「……そうですか」
どうやらやはり腹が立っているらしい。が、それならば益々疑問だ。
我慢せずに当たり散らす彼女が、どうしてここまで静観しているのか。
「シュリさん、お願いします!」
するとスタッフに呼ばれたシュリさんはさっと立ち上がり、肩に掛けてあった上着をバサッと適当に放る。床に落ちる直前でそれをキャッチしたものの、だから俺はマネージャーじゃないっつーの。
シュリさんの次のシーンは、一際素行が悪い男子生徒と対峙するシーン。霜月エリがビンタをするのだけど、実際に叩くんだとか。
「俺大丈夫なんで、一発で終わらせられるように思いっきりいっちゃってください」
相手の男子生徒役の子がカメラが回る前にシュリさんに声を掛ける。するとシュリさんは、「そう。いい心意気ね」と頷いた。
そのやり取りに嫌な予感がして少し離れた位置にいる相良さんを見れば、テレパシーのように相良さんもこちらを向く。その表情は強張っていた。
きっと俺と相良さんの思考は一致していた。ダメだ、あの悪魔にそんなことを言ったら……。
そして、それは予想通りだった。バチーンッ!と強烈な音が響き渡り、周りからは息を飲む音がする。
宙を舞うようにしてふっ飛んで床に倒れた男の子と、両手で頭を抱える相良さんに、俺は心の中で手を合わせて静かに合掌した。
最初のコメントを投稿しよう!