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そしてようやく進むのをやめた時、目の前には部屋の扉があり、シュリさんは躊躇うことなく中に入っていく。黙って入っていいのか迷ったものの、警護対象から離れるわけにはいかないので仕方がない。
そこは大きなスタジオだった。恐らくダンスの練習や舞台の稽古をしたりするのだろう。奥行きがあり、間にはカーテンの仕切りがあって半分ほど閉められている状態だった。
「シュリさ…」
「いつになったらちゃんと出来るの!?いい加減にして!」
誰もいないと思っていたが、シュリさんに呼びかけようとした矢先そんな怒鳴り声が聞こえてきて、思わず口を噤む。シュリさんを見れば、その目はカーテンの奥を向いていた。
「今日の演技は何!?何回ミスしたわけ!?寝ないで練習してこれかよ!つき合ってやってる私の身にもなりなさいよ!」
「ご、ごめんなさ…」
「謝る暇があったら次の台詞読めよ!」
どうやら、俺らが入ってきたことに気が付いていないみたいだ。
女性の罵声の合間に怯えるように謝罪する声がして、どこかで聞いたことがあるな…と眉を寄せる。
シュリさんは腕を組みながら扉に凭れ掛かり、耳を傾けていた。
「だからそんな演技じゃダメだっつってんだよ!この下手くそ!」
「…あっ!」
バチンと肌を打つ音がする。
台詞を読んでいるということは台本の読み合わせでもしているのか。いや、でも、読み合わせをするにしてもそんなに怒鳴り散らす必要があるのだろうか。
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