5人が本棚に入れています
本棚に追加
「楽しそうね。私も是非練習させて欲しいんだけど」
「え?練習?」
「彼女は泣いていて相手にならないから、あなたにお願いしようかしら」
「……え?」
あなたにと言いながらシュリさんは母親を指さす。流れについていけないのか、母親も浅羽さんも頭にはてなマークを浮かべて固まっている。
無論俺も意味が分からず置いてきぼり状態。そもそもシュリさんがこうして間に入ることさえしないだろうと思っていたから、軽い衝撃を受けていた。
「今の台詞だと第七話ね。それじゃあ、その台本の42頁の霜月エリと美桜が言い合うシーンをやりましょうか」
「え?」
「『あんたの仕業なんでしょ?』よ。夜の教室で美桜がエリに話しかけるところ」
そう促すシュリさんの声は穏やかだが、その鋭い眼差しは早くしろと訴えている。
母親は戸惑いながらも台本をめくった。
「『……あんたの仕業なんでしょ?』」
そしてぽつりと台詞を口にする。恐る恐る、シュリさんの様子を窺うように。
その直後だった。
バチン!と母親の手を叩いたシュリさんは、「下手くそ」と冷たく言い放つ。続けて「真剣にやらないと息の根止めるわよ」と。
これには母親のみならず、浅羽さんも俺も息を飲んだ。
「『嫌だわ、怖い顔しちゃって。あなたがなんの話をしているのか、さっぱり分からないんだけど』」
「『み、深山の父親に何したのよ』」
シュリさんが続ければ、母親も浅羽さんが演じる美桜の台詞を読みあげる。が、すぐさまシュリさんの手が伸びて母親の手を弾き、台本を叩き落とした。
最初のコメントを投稿しよう!