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「下手過ぎて話にならないわ。まだ素人の五歳児の方が上手に読むわよ」
「…っ、」
「ほら、やりなさいよ。あなたが真面目にやらないと、プロデューサーに掛け合って美桜の出番を減らしてもらうけど」
「そ、そんなの出来るわけ」
「出来るわ。私を誰だと思ってるの?」
両腕を組み母親を見下ろす様子は、天下のシュリ様だと言わんばかりだ。
実際本当にこの人ならやり兼ねない気がする。しかしそんなことより、さすがに叩くのはやり過ぎじゃないか。
止めるべきか、否か。
どうしようか迷っているうちに、ヤケクソとばかりに母親が再び台詞を口にした。
そうして「下手くそ」と罵るシュリさんと、必死に台本を読む母親との攻防が繰り広げられる。
すっかり間に入り損ねた浅羽さんと俺は、ただただその光景を眺めるしかなかった。
一体シュリさんは何がしたいのだろう。そう考えている間に、肩を突き飛ばされた母親が床に倒れた。
すると母親の顔つきが変わる。次の瞬間、「何すんだよ!」と立ち上がり、シュリさんの胸倉に掴み掛かった。
こうなると止めざるを得ない。
しかしシュリさんの元に向かおうとすれば、俺が動くことが分かっていたかのように、シュリさんは手で俺を制した。
「愚かね、本当に。自分は平気で人を虐げるくせに、自分が虐げられたら逆上するなんて。傲慢な神にでもなったつもり?」
「……なんですって?」
「どうして彼女がミスばかりするのか、母親のくせに何も気付いてないのね」
「……」
「彼女いつも演技の時、明らかにカメラの向こうの何かに怯えているのよ。それはそうよね。こうして毎回毎回罵られれば、恐怖を隠せないのは当然だもの」
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