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「ちゃんと待てが出来てえらいわ」
話を切りあげて戻ってきたシュリさんは、開口一番に失礼な発言をする。
「人を犬みたいに言わないでください」と眉を寄せてぶっきらぼうに答えれば、シュリさんはおかしそうに唇を緩めた。
するとドアの向こうから「シュリさん!?シュリさんどこですー!?」という相良さんの声が聞こえてきて、どうやらいつまで経っても降りてこないシュリさんを探しにきたようだ。シュリさんは真顔に戻ると、「うざいわね」と呟いてドアに歩いていく。
その背中に向かって「あ、あの!」と呼びかけたのは、俺の隣りに立っていた浅羽さんだった。
しかし振り返ったシュリさんに浅羽さんは何も言わない。というより、あからさまにその表情には怯えの色が浮かんでいて、話しだせない様子だった。
そりゃそうだ。撮影現場でもそうだけど、基本的にシュリさんは恐れられている。今もあんな姿を目の当たりにしたわけだし、たった今浅羽さんを見つめるシュリさんの真顔はそれだけで迫力がある。少しくらい目力を抑えたらどうだ。
「何?撮影以外でも私の時間を取るつもり?」
「あっ、え、」
「これ以上私と光冴の邪魔をするなら殺す」
ビクッと浅羽さんの体が揺れる。
おいおい、怖がらせてどうするんだよ。というか誤解招く言い方すんな。
だけど俺はただの護衛なわけで、口を挟むわけにはいかない。内心では浅羽さんに同情しつつ、静かに事の成り行きを見守るしかなかった。
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