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もうこの話は飽きたと言わんばかりにするりと俺の腕から離れていったシュリさんは、「あなたいつまで落ち込んでるの?過ぎたことはしょうがないじゃない」と、とぼとぼ後ろをついてくる相良さんに話しかける。
すると相良さんは俺を見て、どの口が言ってんじゃボケ的な顔をしてくる。思わず苦笑した。
「仕方ないから今日の夕飯は相良が食べたいのにしてあげる」
「えっ!ぼ、僕が決めていいんですか!」
「ええどうぞ」
「じゃあ!じゃあ寿司がいいです!もうこの数週間ずっと寿司が食べたくて!今日も頭ん中寿司ばっかりで、昨日なんか夢にまで寿司が出るくらいで、だから断然寿司でよろしくお願いします!」
「いやよ。私はお肉の気分なの」
「…っ!!!」
なんという理不尽さだ。完全に喜び勇んでいた相良さんは、あまりの横暴にあんぐりと口を開けて俺を見る。
それがなんだかおかしくて……いや、相良さんの心情を思えば面白がっている場合じゃないんだけど。でもいちいちこっちを見て無言で訴えてくる相良さんの顔が普通に面白いし、そもそも二人の掛け合い自体がコントだし。
「…ふ、」
三人で肩を並べてエレベーターを待っている間、じわじわと面白さが込み上げてきて思わず笑ってしまった。が、すぐに仕事中だということを思い出して真顔に戻る。
「ねぇ。今あなた笑った?」
「笑ってません」
「うそ。笑ったわ」
「笑ってません」
「あなたが笑ったところ初めて見た」
「笑ってないです」
「いいえ。絶対笑ったわ」
「絶対笑ってないです」
「……シュリさんお寿司…」
「肉よ」
「…ぶは、」
いや、それはダメだろ。不意打ちだろ。
堪え切れずに吹きだせば、「ほら笑ったわ」「笑いましたね」と、にやにやする二人。
軽く咳払いをして仕事に集中しようとするものの、少しでも気を抜けばまた思い出し笑いをしてしまいそうだった。
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