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「聞こえないの?時間の無駄だわ。とっとと轢き殺して家に向かって」
腕を組んで窓の方を見ながら話す様子は、全然冗談を言っている感じじゃない。いや、そう見えているだけで、実際はただの冗談でしかないのだけど。
だってそんなことを本気で口走る奴なんて、頭がおかしい人間だけだ。
「……もういいわ。あなた、今すぐ降りて」
「え?」
「ドライバーをクビよ。もう金輪際、私の乗る車は運転しないで」
「えっ、あの、」
「早く降りなさい!」
大きな怒鳴り声が車内に響く。
彼女のあまりの理不尽さに驚いている間に、ドライバーの男性は躊躇いつつもドアを開けて外に出た。
するとなぜか、シュリさんが後部座席から運転席に移動する。
「待ってくださいシュリさん。僕が運転しますから」
それをすかさず志季さんが制したけれど、彼女は聞く耳を持たず、ハンドルを握ってアクセルを踏んだ。
それは予期せず後ろに進み、勢いよくバッグしたせいで、そこにいたファン達が悲鳴をあげながら車をよけて地面に倒れ込む。
その行動に、俺はただ唖然とするしかなかった。
しかしシュリさんの奇行は止まらない。今度はシフトレバーをドライブに切り替えて、再び強くアクセルを踏み込んだ。
急停止急発進に、何も掴んでいない体が前後に揺さぶられる。
そんな俺の視界に飛び込んできたのは、さっき車の前に飛び出してきた男が再び立ちはだかる姿だった。
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