その男、使用人。

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「あーあ、金になったかもしんねぇのに」 こんな時までお金のこと考えるなんて、本当に。 この男は「金しか勝たん」といつも言ってる。 …まぁ、うちに来るまでの彼の環境を思えば仕方ないのかもしれないけど。 「こっちはどうする?もうこれ履けねぇな。後で購買に買いに行くか」 レシートもらえよ、経費経費。と言っている。 かと思えば教科書なんて入っていないスクール鞄から取り出したビニール手袋を装着し、私の靴箱の中を掃除し始める。 「い、いいよ…汚いし…匂い移るよ…?」 「給料上げてくださいねお嬢さま」 「………」 「…まぁ、こんなもんでいいか」 ゴミ袋に生卵まみれのスクールサンダルを放り込み、ビニール手袋も捨てて、最後に除菌シートで手を拭いている。 教科書は入ってないくせに、この準備の良さは一体。 「ほら、これ履けよ」 そう言って自分の靴箱から取り出したスクールサンダルを私の足元に置く。 さすがにそれを履くのは、靴下姿の奴を前に躊躇われた。 「……でも」 「いいから履け。俺は来客用の履くから」 「じゃぁ私が来客用ので、」 「目立つだろ。天下の綾小路(あやのこうじ)家の一人娘がそんなの履いてると」 「………」 ありがたく、それを借りることにする。大きくて全くサイズが合ってないけど、歩けないことはない。 奴は私が履いたのを確認すると、今度は一歩私に近づき、腕を取って顔を寄せて来た。 「っ…」 ふわりと香る、シトラス系の香水。 男性に免疫のない私は、いくら相手がこの男であっても、この距離は心臓に悪い。 「っな、なに、」 「…んー、匂いは付いてねぇ、かな」 そんな言葉に我に返る。 私の肩付近の匂いを嗅いでいただけのようで、意識した自分が途端に恥ずかしくなった。 「まぁ、一応やっとくか」 そう言ってシュッと携帯用消臭スプレーを私の制服に軽く吹きかける。本当に、なんと準備の良いことで。
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