297人が本棚に入れています
本棚に追加
「あーあ、金になったかもしんねぇのに」
こんな時までお金のこと考えるなんて、本当に。
この男は「金しか勝たん」といつも言ってる。
…まぁ、うちに来るまでの彼の環境を思えば仕方ないのかもしれないけど。
「こっちはどうする?もうこれ履けねぇな。後で購買に買いに行くか」
レシートもらえよ、経費経費。と言っている。
かと思えば教科書なんて入っていないスクール鞄から取り出したビニール手袋を装着し、私の靴箱の中を掃除し始める。
「い、いいよ…汚いし…匂い移るよ…?」
「給料上げてくださいねお嬢さま」
「………」
「…まぁ、こんなもんでいいか」
ゴミ袋に生卵まみれのスクールサンダルを放り込み、ビニール手袋も捨てて、最後に除菌シートで手を拭いている。
教科書は入ってないくせに、この準備の良さは一体。
「ほら、これ履けよ」
そう言って自分の靴箱から取り出したスクールサンダルを私の足元に置く。
さすがにそれを履くのは、靴下姿の奴を前に躊躇われた。
「……でも」
「いいから履け。俺は来客用の履くから」
「じゃぁ私が来客用ので、」
「目立つだろ。天下の綾小路家の一人娘がそんなの履いてると」
「………」
ありがたく、それを借りることにする。大きくて全くサイズが合ってないけど、歩けないことはない。
奴は私が履いたのを確認すると、今度は一歩私に近づき、腕を取って顔を寄せて来た。
「っ…」
ふわりと香る、シトラス系の香水。
男性に免疫のない私は、いくら相手がこの男であっても、この距離は心臓に悪い。
「っな、なに、」
「…んー、匂いは付いてねぇ、かな」
そんな言葉に我に返る。
私の肩付近の匂いを嗅いでいただけのようで、意識した自分が途端に恥ずかしくなった。
「まぁ、一応やっとくか」
そう言ってシュッと携帯用消臭スプレーを私の制服に軽く吹きかける。本当に、なんと準備の良いことで。
最初のコメントを投稿しよう!